Autumn issue 2024
1. 最近の研究から/FROM LATEST RESEARCH
ウィーン大学 Department of Inorganic Chemistry, Faculty of Chemistry, University of Vienna
- Abstract
- 結晶回折測定で決定される3次元分子構造は通常原子座標として表現される。X線回折には本質的に試料の電子分布情報が含まれるが、価電子構造を実験的に特徴づけるには、原子分解能を超える高い測定・解析精度が要求される。測定試料から良質な回折像が得られるのであれば、タンパク質のような高分子中でも電子分布を実験的に特徴づけることができる。一方、低分子化合物であっても、小さな結晶しか得られず原子座標決定さえ困難が伴うケースは頻発する。このような高難度試料から最大限に構造情報を引き出すためには、放射光を含め線源・線種を適切に活用することが期待される。
著者らは最近、電子顕微鏡とX線自由電子レーザーをそれぞれ利用した微小結晶構造解析を行い、2つの手法によって有機化合物構造がどのように可視化されるか検証した。水素原子の可視化位置や原子電荷への感度はそれぞれの散乱特性が特徴的に反映される。サブ原子分解能の描像を得たことで、これらの差異を実験的に区別することができた。本稿は量子ビームを利用した、高難度試料の精密構造情報へアクセス可能にする取り組みを紹介する。
京都大学 化学研究所 Institute for Chemical Research, Kyoto University
- Abstract
- ナノ空間に存在する化学種にはバルクでは見られない特異な性質が観測されることがあり、ナノ空間に閉じ込められた化学種の機能や役割について近年注目されている。ナノ細孔内の事象を分子レベルで解明することは真に機能する次世代多孔質材料の開発のみならず吸着分子の有効利用に繋がると期待されるが、煩雑なナノ細孔内部の現象を調べるのは通常困難である。我々は内径約3.8 Åの0次元空間をもつフラーレンに着目し、その内部に閉じ込めた化学種の物理物性やそのふるまい、化学反応性について研究を進めている。本稿では、フラーレンに包接された単一の二酸化炭素分子について、放射光分光に加えて単結晶X線結晶構造解析、理論化学計算を組み合わせることでナノ閉じ込め効果について検証した最近の成果について紹介する。
神奈川県立産業技術総合研究所 次世代半導体用エコマテリアルグループ Eco-materials for next-generation semiconductors group, Kanagawa Institute of Industrial Science and Technology
- Abstract
- 近年、熱膨張を制御する技術として負熱膨張物質が広く研究されている。本研究では圧力下で不連続な巨大体積減少が起こる物質に着目し、放射光を活用した結晶構造・電子状態・ドメイン変化といった多角的な視点から負熱膨張物性の評価を行った。このようなミクロスケールからマクロスケールまでの多角的な視点からの負熱膨張物性の評価はメカニズムの理解のみならず材料設計にも有効であると示した。
[1]東京大学 先端科学技術研究センター Research center for advanced science and technology, The university of Tokyo、[2](国)理化学研究所 放射光科学研究センター RIKEN, SPring-8 Center、[3]東京大学 物性研究所 The Institute for solid state physics, The university of Tokyo
- Abstract
- 水の窓軟X線顕微鏡は、水と炭素の吸収コントラストにより細胞を高コントラストにラベルフリー観察できる。しかし、その生細胞への応用は、細胞への放射線障害の問題により制限されてきた。我々は、放射線による細胞障害を無視できる、フェムト秒パルスによるシングルショット撮像が可能な、軟X線自由電子レーザーによる軟X線顕微鏡を開発した。さらに、照明・結像光学系に大視野かつ長作動距離、軟X線自由電子レーザーの照射に耐えるウォルターミラーを利用することで、培養液中の生きた哺乳類細胞の観察を可能とした。観察された生細胞像は、化学固定細胞とは大きく異なる構造を示していた。
[1](国)理化学研究所 創発物性科学研究センター 物質評価支援チーム Materials Characterization Support Team, RIKEN Center for Emergent Matter Science、[2](国)理化学研究所 環境資源科学研究センター 生体機能触媒研究チーム Biofunctional Catalyst Research Team, RIKEN Center for Sustainable Resource Science、[3]東京工業大学 地球生命研究所 Earth-Life Science Institute, Tokyo Institute of Technology、[4](国)理化学研究所 放射光科学研究センター 軟X線分光利用システム開発チーム Soft X-Ray Spectroscopy Instrumentation Team, RIKEN SPring-8 Center、[5](公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 産業利用・産学連携推進室 Industrial Application and Partnership Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI、[6](公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 分光推進室 Spectroscopy Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI、[7](公財)高輝度光科学研究センター 研究プロジェクト推進室 Research Project Division, JASRI、[8]電気通信大学 燃料電池・水素イノベーション研究センター Innovation Reserch Center for Fuel Cells, The University of Electro-Communications
- Abstract
- 世界的なSDGsの潮流の中で、再生エネルギーを用いた水の電気分解によるグリーン水素製造が注目されている。中でも、プロトン交換膜(PEM)水電解は電圧応答性が高く、再生可能エネルギーによるグリーン水素製造に適した技術として注目されている。しかし、PEM水電解の陽極触媒には非常に高価で埋蔵量の少ないイリジウムが用いられており、その使用量の削減が喫緊の課題となっている。我々はマンガン酸化物系触媒に取り組んできており、今回イリジウムを二酸化マンガンに原子状に分散させた酸素発生触媒を開発した。本触媒は、イリジウムの使用量を従来の触媒よりも95%以上削減しているにもかかわらず、高い活性と安定性を維持した。我々はSPring-8を活用し、本触媒の多角的な解析を行った。X線吸収分光(XAFS)およびX線光電子分光(XPS)により、本触媒中のイリジウムは+6価の高酸化状態となっており、これが本触媒の優れた活性・安定性の起源であることを明らかにした。
2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 精密分光推進室 Spectroscopy Division, Center for Synchrotron Radiation Research JASRI
(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 構造生物学推進室 Structural Biology Division, Center for Synchrotron Radiation Research JASRI
(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 回折・散乱推進室 Diffraction and Scattering Division, Center for Synchrotron Radiation Research JASRI
(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 構造生物学推進室 Structural Biology Division, Center for Synchrotron Radiation Research JASRI
SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)行事幹事(秋の学校担当)/(国研)日本原子力研究開発機構 物質科学研究センター Materials Sciences Research Center, Japan Atomic Energy Agency
[1]SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)/(国研)物質・材料研究機構 マテリアル基盤研究センター 光電子分光グループ Center for Basic Research on Materials, National Institute for Materials Science、[2](公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 散乱・イメージング推進室 Research and Utilization Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI、[3]近畿大学 理工学部 理学科 化学コース Faculty of Science and Engineering, Kindai University、[4]熊本大学 理学部 理学科 物理学コース Department of Physics, Kumamoto University、[5]九州大学 理学研究院 化学部門 Department of Chemistry, Kyushu University
(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 精密分光推進室 Precision Spectroscopy Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI
(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 産業利用・産学連携推進室 Industrial Application and Partnership Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI
公益財団法人高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 産業利用・産学連携推進室 Industrial Application and Partnership Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI
3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS
The Proposals Approved for Beamtime in the 53rd Research Term 2024B